
「かつて我々が見てきた雨と、今の雨はもう別物になっているんです」
2030年に創業100周年を迎えるレインウェアの老舗メーカー、株式会社トキワ。
専務取締役の萩原氏は、静かに、しかし断固とした口調でそう語り始めました。
満を持してリリースされた新製品「Rain Navigator(レインナビゲーター)」。 その開発の裏側には、単なるスペック競争ではない、気候変動という地球規模の課題への「メーカーとしての覚悟」と、業界の常識を覆す「ある決断」が隠されていました。
「C0(非フッ素)撥水」を選択し、撥水剤に頼らないで追究した撥水性。
なぜ多くのユーザーが信奉する「透湿性」を追究しなかったのか。
その真意を紐解くため、開発の指揮を執った萩原専務にお話を伺いました。
(聞き手:LOFIR 岡田)
かつてとは「別物」になった雨に立ち向かうために

岡田: ——本日はよろしくお願いします。まず単刀直入にお伺いしますが、今回、新製品「Rain Navigator」を開発した背景について教えてください。
萩原専務(以下、萩原): よろしくお願いします。一番の理由は、やはり気候変動ですね。ここ数年で、ゲリラ豪雨や線状降水帯といった言葉が日常となり、雨の降り方そのものが激変しました。かつて私たちが長年慣れ親しんだ雨の降り方は、長期間断続的にしとしと降る雨でした。私たちだけでなく、お客様にとっても、今の雨はかつての雨とは明らかに「別物」になっています。 これまでの製品ももちろん今でもお引立て頂いておりますが、この変化する気候に対応した新しい標準(スタンダード)を作る必要がありました。
未来のために、「環境」も「性能」も諦めない。

岡田: ——今回の製品で注目されていることの1つに環境配慮型の「C0(シーゼロ)撥水」の採用があります。レインウェアでは、撥水性は多くのお客様から期待される性能です。それゆえ、フッ素フリーへの移行で撥水性が落ちることへの抵抗はあったことと思いますが、それでもC0撥水を選択した理由をお聞かせください。
萩原: 正直なところ、社内でも意見は分かれました。仰る通り、生地の表面をコロコロと水滴が弾くあの様子をお客様はお求めなので、C0撥水では、お客様の期待を損ねてしまわないかという意見もありました。一方で従来の撥水は「フォーエバー・ケミカル(永遠の化学物質)」と呼ばれ、自然界で分解されず蓄積していくリスクが世界的に指摘されています。
岡田: ——「性能」と「環境配慮」 その両立は高いハードルだったのではないでしょうか。
萩原: そうですね、難しいところですが、挑戦する意義はあります。2030年達成目標の1つとされるSDGsの「つくる責任」にもあるように地球環境を意識しないモノづくりはメーカーとしてできません。ちょうど同じく2030年に会社も創業100年を迎えるため「環境に配慮しながら、性能も維持する」ということを目標にモノづくりをしようと決断しました。
またレインナビゲーターでは、プラスチックごみを削減するために、これまでレインウェアで一般的だった、プラスチック製(PVC素材)の透明な包装材の使用を廃止しました。その代わりに、レインウェア本体と同じ丈夫な生地で作った「専用収納袋」をパッケージとして採用、利便性も兼ねています。
薬剤の力だけに頼らず、「糸の密度」で雨を弾く。
岡田: ——具体的に、C0撥水の弱点とされる「油汚れへの弱さ」や「強い雨での染みこみ」をどう克服されたのですか?
萩原: 撥水剤ではなく、生地のつくりを工夫しました。 生地は1本の糸から生まれます。その1本の糸の太さ、糸が生地として織りなすまでの工程を1つ1つ何度も見直しました。工夫した点の1つに、 今回採用した「高密度タフタ」があります。これは、糸が生地になる工程で、縦糸と横糸が隙間なく密に織り込まれています。物理的に水滴が入り込めない「壁」をまず作り、その上でC0加工を生地に施す。このハイブリッド構造によって、初期撥水(洗濯する前の撥水)では、従来品と同等以上の撥水性を実現しました。

岡田: ——なるほど、生地の密度そのものを変えたのですね。それが、製品化された時の「軽さ」にも繋がっているのでしょうか。
萩原:そうですね、糸が密に詰まっていることで生地にコシが生まれ、かつ薄くてしなやかに仕上がります。 実際にサンプルを袋から出して、ぐしゃっと握ってみてください。従来の生地に見られたシャカシャカ感がなく、パッと手を離すと、ふわりと戻ってほとんどシワが残らないという声を製品をご覧の方々から頂きます。「環境に良い」だけでなく、着心地も追究し、軽く柔らかさを表現しています。そこをぜひ体感していただきたいですね。
「数値」の高さより、着ていて「疲れない」着心地を。

岡田: ——もう一点、Rain Navigatorの特徴として「透湿性」がありません。一般的に、レインウエア着用時のムレを嫌がるユーザーからの透湿性レインウエアへの期待は大きいと思いますが、ここにはどのような意図があるのでしょうか?
萩原: 透湿性レインウエアのムレに対する期待が大きいことは承知しています。一方で「透湿度の数値が上がれば上がるほど、ムレなくなった」という声よりも「透湿素材なのにムレる」という声をこれまでも数多く聞いてきました。 日本の高温多湿な気候において、どんなに高い透湿数値を持つ高級素材を着ても、動けば汗をかきます。レインウエアはサウナスーツのような状態ですので、どうしてもムレをなくすことは困難です。時に、そのムレをモレ(水漏れ)だと錯覚し、クレーム対象となるケースも数多く経験してきました。
岡田: 確かに、数値が高くてもムレる時はムレますね。しかし、ムレてもユーザーの透湿性レインウエアに対する支持は根強いものがあります。この点についてはどのようにお考えですか?
萩原: 私たちは、ユーザーが透湿性レインウエアに求めているのは、数値上の透湿性よりも「着心地」にあるのではないかという見立てをしています。従来のレインウエアにあるレインウエア特有の重くて硬くカサカサとした着心地と比較すると、透湿性レインウエアの軽くてしなやかな着心地は、ユーザーにとっては快適なのだと考えています。
そこで今回の新製品Rain Navigatorでは、透湿性レインウエアにユーザーが求めているのではないかとされる、この「着心地」を徹底的に追究しました。
岡田: ——では、具体的にどのように着心地を追求したのですか?

萩原:まずは、生地です。先ほどお話しした1本の糸から生地を織りなす工程を見直す中で、糸の織り方と密度を工夫し、生地に一定の弾力性を持たせることができました。その弾力性のある生地の裏面の防水加工として選択したのは「TPU素材」です。TPUはゴムのようにしなやかな性質をもち、生地がゴワつかず体の動きに追従しながら耐久性が高い素材です。法人のユニフォームとして定期的に使用される製品として耐久性は必須要件であることもTPUを選んだ理由の1つです。その他には、腕の動きを解放する「ラグランスリープ」設計により、デザインにおいても着心地を追求しました。
私たちの決断は、「中途半端な透湿性を残して防水リスクを負うより、水を通さない『防水』に振り切る」ことです。その代わり、透湿素材の魅力である「軽さと柔らかさ」は、素材選びとデザインの工夫で実現する。一方、レインウエアの基本である防水性においては耐水圧26,000mmという高い防水性を実現する。このようなアプローチで、雨の中働く方々にとっての「快適」を追求しました。
雨の中で働く人の、「景色」を変える一着になりたい。

岡田: ——最後に、ユーザーの方へ伝えたいメッセージはありますか。
萩原: 是非一度、Rain Navigator (レインナビゲーター)を着て頂き、従来のレインウエアとの違いを体感していただきたいです。既に多くの企業様で製品をご覧頂き、従来品との違いから、従来品との切り替えをしていただいております。WEBやカタログでも製品情報は発信させていただいておりますが、やはり現物をご覧になっていただいたり着ていただくと、印象が全く変わり、新たなイメージが生まれるようです。
岡田: ——「Rain Navigator (レインナビゲーター)」という製品名に込められた想いなどありましたらお聞かせください 。

萩原:私が言うのもなんですが、雨の中でどこかに歩いて移動する時は大変ですよね。でも、そんな大変な天候下でも一生懸命働かれ、私たちの生活を支えてくださっている方々がいらっしゃいます。そのような方々に感謝と敬意を抱きながら、 雨の日を「憂鬱なもの」から、少しでも「景色」として楽しめる余裕に変えていきたい。冒頭にもお話ししたように、その雨も以前とは違い、過酷で危険な天候となりました。変わりゆく雨の日の案内役(ナビゲーター)として、Rain Navigatorが、雨の中で社会を支える皆様のお役に立てる存在になってもらいたいという想いを込めました。
岡田: ——Rain Navigatorは、まさにこれからの時代の羅針盤となる一着だと感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。
【製品情報】 Rain Navigator (レインナビゲーター)

気候変動時代のプロスペック・レインウェア。
C0撥水加工と高密度タフタの融合により、やわらかな着心地と完全防水を実現。

